
税理士 大阪市の体験談
家計の保有する総資産額六二○○万円のうち、一○○○万円くらいが金融資産であり、五二○○万円くらいが実物資産である。
八割以上が実物資産であることがわかる。
わが国の資産のうち、圧倒的シェアーが実物資産で占められているのが大きな特色になっている。
そしてその半分前後が遺産によって生じたものなので、わが国資産の約四割が遺産から派生しているのである。
まさに実物資産による遺産社会であるといっても過言ではない。
このことの経済的意味はまことに大きい。
一つの意味は資産分配への効果である。
金融資産と実物資産の不平等度に関して、遺産がどの程度寄与しているかを示したものである。
この表における遺産額は、現在価値に割り引いたものである。
すなわち現地点で評価したものである。
従って割引率の影響を受けている。
金融資産分配の不平等に対して遺産の寄与する割合はほとんどゼロに等しく、圧倒的な寄与は遺産によらない。
それに対して実物資産分配の不平等に対しては、三割前後が遺産による寄与である。
相当程度高い寄与である。
全資産の分配の不平等度に対しては、およそ四分の一の寄与である。
実物資産分配の不平等度における相当な部分は、遺産によって決まっているのである。
もう少し具体的にいえば、遺産を受け取るか受け取らないかが、実物資産分配の不平等決定に与える効果が相当大きい。
全資産についても同様のことがいえる。
実物資産を保有しているかいないかの差については、資産分配に大きな影響力があった。
実物資産ゼロの人を標本に含めると、資産分配の不平等度はジ二係数で実に○・六から○・七の高さになっていた。
後に示すように、親から実物資産を遺産として受け取った人は、自分の子供にも実物資産を残す可能性が高い。
逆に、親から実物資産を遺産として受け取らなかった人は、自分の子供にも実物資産を遺産として残さないか、残すとしても少額の遺産しか残せない可能性が高い。
このことを言い換えれば、土地や家屋といった実物資産は、世代間で移転が繰り返される可能性が高いのである。
実物資産が資産分配におよぼす意味はまさにここにある。
誰が遺産をどれだけ受け取るのか日本人が遺産をどのようにみており、そして実態がどうであるか簡単に述べてみよう。
統計は郵政省のデータ「金融資産選択調査」(一九九一)によって確かめてみよう。
第一に、自分の資産を何らかの形で子供に残したいと思っている家計は五六・七%、残すつもりはないとする人は四○・三%である。
過半数の人が残したいと思っているので、遺産動機は高いといえる。
一方、約四割の人はそう思っていないので、無視できないほどの高さである。
しかし、これらの人でも予定より早く死亡することがあるので、財産が残されることが多い。
結果として非意図的に子供に遺産が残るのである。
第二に、相続に際して親の面倒が条件になっているのだろうか。
親の面倒をみることが条件になっている家計が四三・一%、そうでない家計が三七・九%となっている。
ほぼ桔抗した数字であり、前に説明した概念であるが、利他的動機を戦略(ないし交換)動機が現在ではやや上まわっているといえよう。
第三に、残したいと思っている人の遺産額は約六六四九万円である。
相当高い額を残したいと考えている。
住宅・土地で残す人が八六%、金融資産で残す人が四一%であった。
複数回答なので実物資産と金融資産の両方で残す人がいるから、一○○%を超えているのである。
遺産における住宅・土地の役割の高さがここでもわかる。
第四に、現世代(四○〜六○代)に注目してみると、親から遺産を相続した人の割合は二六遺産が資産分配に与える影響力には絶大なものがあった。
遺産を受け取れる人と受け取れない人の差は大きい。
受領した人の資産は多額となり、受領していない人の資産は少額となっている。
親の資産状況が遺産を通して子供の資産を決定しているともいえる。
子供の人生の初期条件が、遺産を受けるか受けないかによって大きく変わることを意味している。
自己の能力や努力と無関係のところで、初期資産にハンディを背負った人と、初期条件に最初から有利さを持っている人の間で、人生に差が生じるのは不公平とする考え方がある。
あるいは遺産の受領は神の決めることと考えれば、不公平とはいえないかもしれない。
わが国には「子孫に美田を残さず」とする思想もあり、遺産を残さない考え方もある。
子供の自立心と努力を促すことを人生の教訓としたのである。
これとは逆に、子供が苦労しないようにと、親が遺産を残す考え方も親の子への愛情の深さといえ、一概に非難できないのである。
遺産に関してはここで述べたように様々な考え方がある。
政策問題を含めて次の章で論じてこれまでは所得と資産に限定して、主として経済学の立場から論じてきたが、不平等・格差の問題は、職業、教育、結婚、いろいろな分野で議論される。
社会学では人の職業を階層の指標とみなす。
親子間で職業の移動があるかどうかを社会移動と呼び、親子で職が同じ時に社会移動がなく、親子で職が異なる時に社会移動があるとみなす。
移動がない社会を閉鎖社会、移動が多い社会を開放社会と呼ぶこともある。
職業の移動を問題にするということは、職業にはプレスティージ(職業威信)による差があることを暗黙のうちに認めている。
やや誇張していえば、職業が人の資質、経済・社会条件を象徴する変数として決め手になるとみなしている。
日本の職業分類では、専門職、管理職、事務職、販売職、熟練バブル・カラー、半熟練バブル・カラー、非熟練バブル・カラー、農林漁業、の八種を考える。
ほぼ熟練の必要度に応じた順位で並んでいる。
プレスティージや所得もこれに似た順序と理解できる。
このような分類は日本の社会学の伝統に従ったものである。
経済学の立場からすると、勤労者も自営業か一屋用者かの違い、雇用者も官か民かの違い、企業規模の差も大きいとみなすが、ここでは社会学の立場に従う。
戦後の日本を職業の変遷から評価すると、まず農林漁業の衰退があった。
次いで、バブル・カラーとホワイト・カラーの伸びがみられた。
最近はバブル・カラーが減って販売職も含めた専門・管理職が伸びているといえる。
これら産業構造と職業構造の変化は、人の職業を強制的に変更させることになるので、親子間の社会移動の開放性を調べるには、この強制要因を除いて純粋移動の程度を抽出する必要がある。
わが国の社会学研究の成果によると、社会移動に関して次のようなことがわかっている。
第一に、戦前と戦後を比較すれば、戦後の方が純粋移動度が高い。
すなわち子の職業が親の職業と異なる確率は戦後の方が高い。
職業選択の自由が保障されたことと、社会が職業に関して開放的になったことが寄与している。
第一だ、戦後五○年を見わたせば、純粋移動率は一九五五年から六五年に大きく上昇したが、それ以降はほぼコンスタントである。
所得分配の不平等が進行している最近でも、階層固定化は進んでいない。
すなわち、社会移動の開放性はそのまま続いているとされる。
一九五五年から六五年にかけて社会移動が急激に上昇したのは、戦後の諸改革が功を奏したからだと理解できる。
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